「ランニングは膝に悪い」と聞いたことがあると思います。長年走り続けていると膝の軟骨がすり減って、高齢になると歩けなくなる、なんてまことしやかに語られています。それは本当でしょうか?
私たちの体にある関節の中でもよく動く関節、肩や股関節や膝などは滑膜関節と呼ばれています。滑膜という膜が関節を包み込んでいる関節のことです。滑膜は滑液という順滑液を分泌していて、そのおかげで関節がよく滑ってスムーズに動き、さらに周囲の組織が栄養をもらっています。
車、自転車、ミシン、などの身の回りの工業製品は油を差さなければ正常に動きません。それは摩擦があるからです。膝はよく動くうえに体重が乗っているため、大きな摩擦が生まれます。そこに潤滑油の役割を果たす滑液が無かったらと考えると、ゾッとしますね。
ちなみに、上の工業製品は動かさないと悪くなっていきます。動かすことでギアの油が隅々にまで行き渡るからです。人の体も全く同じように、動かさないと悪くなっていきます。筋肉は落ち、潤滑油が回らなくなり、動きがギシギシしてきます。摩擦が大きくなり、結果的に関節に炎症が起こり、それによってさらに動かさなくなって、体重が増して膝への負荷が大きくなります。
では本題である、ランニングは膝に悪いのか?ということですが、ここまで読んでいただければ「動かすことは悪いことではない」と気づいていただけたと思います。
ユタ州のブリンガム・ヤング大学で行われた最新の研究では、健康な膝をもつ30歳以下の男女のランナーを集め、30分間各々のペースで走った場合と30分間座り続けた場合とで血液や滑液の成分にどのような変化が見られるのかを比較しました。
その結果、走ったグループの膝の炎症の基準となる物質の値が極めて低いこと、さらには走る前後を比較しても炎症物質の値が下がるということが分かりました。座ったグループは炎症物質の量が少し増加したそうです。
この実験から分かったことは「30分のランニングを1回行っただけで膝の内部環境が良い方へ変化した」ということです。同時に、座ることは膝の病気のリスクを上げていることを意味します。
体は動かすようにデザインされています。だから動かすことで健康になります。「痛いから安静に」という時代はもう終わりました。自分にできる運動を見つけ、無理のないペースで動かすことによって関節の健康を保つことができるのです。
膝だけでなく他の関節にも全く同じことが言えます。
痛い→動かない→体重が増える→痛い
という負のサイクルを壊して
動かす→順滑液を回す→健康体重の維持→動かす
という健康サイクルに切り替えましょう。
参考文献
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27699484
European Journal of Applied Physiology